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町長は、令和6(2024)年6月7日に開会した6月定例議会の冒頭に所信表明演説を行いました。
先月14日に実施されました安芸太田町長選挙において、再任いただきました橋本博明です。
このたびの町長選挙は私以外に立候補の届け出がなく、無投票での再任となりました。町民に直接評価をいただけなかったのは残念ではありますが、結果は結果として受け止め、引き続き4年間職務に邁進してまいりますので、町民ならびに議員各位の引き続きのご指導ご鞭撻をよろしくお願いいたします。
私としては、この4年間、町の活性化に向けて様々な取り組みにチャレンジしてきた事、また長年の懸案を前に進めてきたという点で「新しい風」を起こせたのではないかとそれなりに自負しているところですが、肝心の人口減少に歯止めをかけるという点では、納得のいく成果を出せたとは思っておりません。
だからこそ、今しばらく仕事を続けさせていただきたいと二期目に挑んだわけですが、こうして再びチャンスを頂いたからには、引き続き人口減少に歯止めをかける事を最大の目標に掲げ、この任期中に成果を出すべく全力で取り組む決意です。
ただし、その具体的な取り組みについては、私としては既に一期目から様々着手してきたつもりであり、その内容については試行錯誤を重ねて参りましたが、積み重ねてきたことに自信をもって、更に前へ進めていきたいと考えております。
具体的には、人口減少に歯止めをかけるにあたり、本町では移住希望者は既に一定程度おられましたので、その前提のもと、移住が進まない最大の要因は住宅不足にあるという判断から、現在進めている定住促進賃貸住宅の整備等(1)住宅の確保については引き続き進めるとともに、(2)本町ならではの雇用、すなわち観光や一次産業等拡大し、安芸太田町でなければ就くことの出来ない雇用を増やすことでも、移住定住の理由を作っていきたいと考えておりますし、その雇用確保の目玉事業の一つとして、(3)道の駅再整備については、この任期中、具体的には令和9(2027)年4月リニューアルオープンに向けて全力で取り組む旨を、私としての公約に掲げております。
また、人口減少対策には移住者を増やすことは勿論のこと、転出される方を抑えていくことも重要な取り組みです。この点について、従来から取り組んでまいりました、安芸太田病院等の医療提供体制の確保や新公共交通モリカ―といった公共交通の維持、moricaを活用した生活利便性の向上についても引き続き取り組み、更に進化を図ってまいります。
加えて、二期目の新たな取り組みとしては教育の分野にも力を入れていきたいと考えており、具体的には今年の春先まで取り組んできました教育大綱の改定作業について、今後早急に完了させたうえで、その新しい教育大綱のもと、(4)本町らしい教育を追求することで、「子育てするなら安芸太田町」と言っていただける環境を整え、子育て世代の移住定住を促していきたいと考えております。
また、一期目は兎に角人口減少に歯止めをかける取り組みに注力し、これは引き続き取り組むつもりであることは今申し上げたとおりですが、そうは言ってもこれからは、例え人口減少が厳しくなったとしても町政を維持できる体制を整えていくことも重要です。そこで、二期目においては、昨年度から取り組んできた公共施設等の個別管理計画の改定作業と併せて(5)本町の保有する公共施設の3割削減を改めて目標として掲げるとともに、(6)moricaの活用と行政サービスのデジタル化を引き続き強力に推進し、これまで以上に行政のスリム化にも力を入れてまいります。
更に、本年は町の長期総合計画の改定年度に当たります。
一期目で進めてきた人口減少対策は、あくまでも本町に移住を希望されている人が一定程度おられるという前提のもと、その流れを妨げている問題点を改善するという対症療法的な性格が強かったと思っておりますが、コロナ禍が明けた今後は、移住者獲得の地域間競争も更に激しさを増すと予想されますので、本町の魅力そのものを更に高めて移住定住の希望者を増やしていくという根本療法的な対応が必要となってまいります。
教育分野に力を入れると申し上げたのは、そうした本町の魅力を更に高めるための重要な取り組みの一つではありますが、ほかにも、本町の大切な資源である自然の魅力を更に高めるという点で、本町の自然を代表する(7)太田川、その清流復活にチャレンジする事ですとか、本町は町民の健康づくりにも注力してきましたが、その特徴もまた更に高めたいという事で(8)「健康ポイント事業」等新たな取り組みを進め、高齢化に悩む自治体への一つのモデルケースをお示しできないかということや、また最近はSDGs等の取り組みが注目を集めていますが、本町においても(9)バイオマス利活用、地産地消など「地域循環型社会」に挑戦するなど、これからの時代をリードするような施策にも果敢にチャレンジし、本町が目指すまちづくりの目標を定めていきたいと考えております。
ということで、私としても二期目は更なるパワーアップを図りたいと意気込んでいたところですが、その矢先に、「人口戦略会議」が地方自治体の『持続可能性』を分析するレポートを出され、本町は「消滅可能性自治体」であると分類されました。
実は10年前には「日本創生会議」が同様の分析をされ、本町は「消滅可能性都市」であると評価されておりましたので、中には「またか・・・」とか、「何をやっても人口減少は避けられないのか・・・」と悲観的に受け止められた町民も多いと思います。
施策遂行の責任者である私としては、この指摘は真摯に受け止めなければならないと思っていますが、当事者である町民の皆様には、今回の調査結果について、更に2つの点をご認識いただきたいと思います。
一つは、「消滅可能性自治体」と分類はされましたが、その分類は町内の若年女性が30年後どれだけ残っているかという減少率が判断基準となっていますが、10年前の調査からの減少率の改善度で言えば、本町は県内では廿日市市、海田町に次いで3番目に良かったという点です。基準はクリアできなかったけれども、前町長の時代も含めて、我々は何もしてこなかったわけではないし、また成果が出ていないわけでもないということが一つ。
もう一つは、これはあまり指摘されていないのですが、今回の調査では若者が都会に集まる事のリスクも指摘されている点です。
というのも、今回の調査では新たに「ブラックホール自治体」という分類が作られています。
これは東京や大阪といった大都会の一部自治体が分類されているのですが、こうした自治体は都市の魅力で若い人を集めまくっていて、生産年齢人口は確保できていますが、出生率が低いため子どもを増やせていません。
最近、昨年度の出生率データが公開され、全国平均では1.2と過去最低を記録し、東京都はついに1を切るというショッキングな報道がありましたが、まさに大都会の一部自治体は、人は集まるけど、新たに生み出さないという「ブラックホール」のような状況であり、人口減少の観点からはむしろ拍車をかける存在になっています。
それでも我々地方は、働き口は都会にしかないからと、せっせと大切な若者を送り込んできたわけですが、その状況もここ数年で大きく変わっています。
それは皆様ご存じのとおり、コロナ禍という未曽有の事態を受けて、特に都心部を中心にテレワークが発達し、どこにいても仕事が出来る環境が整いつつあるためで、結果として、これまでのように就職するのに都会に集まる必要性は薄まりつつあります。
この人口減少という課題に加えて、大都会に若者が集まるリスクとして私が一番懸念しているのは災害です。とりわけ、多くの識者が南海トラフ地震や首都直下地震は、時期はともかく、間違いなく近い将来に起きると指摘されています。
その時に最も被害が大きく、かつ、その後の避難生活が最も悲惨となる大都会に、これは能登半島地震でも避難所の支援については、狭隘な地形が災いして、孤立状態が続くことの問題が指摘されていましたが、それでも能登半島地震で支えるべき避難民は最大でも3万人だったのに対し、南海トラフ地震発災時の避難民は1,000万人を超える事が予想されています。それだけの避難民を支える体制を作り上げる事が本当に出来るのか、その時最も悲惨な生活を強いられるのは避難者が集中し、かつインフラが寸断されると生活そのものが成り立たない大都会であることは容易に想像がつくと思いますが、そうした地域に子どもや孫をせっせと送り続けることが、我々にとっても、そして日本にとっても本当に良い事なのかどうか、真剣に考えなければならない時期に来ています。
そして都市の抱えるこれらのリスク、災害リスクは勿論のこと、長時間労働や共働きによって低くならざるをえない都会の出生率の改善は、残念ながら都会だけでは解決はできないと思いますし、国もまたこうした状況に効果的な取り組みが打ち出せていません。
唯一、私なりに考えうる現実的な解決策は、地方や田舎が、自力で魅力を高めることで都会の方々を地方に引き寄せる、そのことで人口分散を促す以外にないのではないか。つまり日本の未来は、大変心細くはありますが、地方や田舎の自発的な頑張りにこそかかっているのであって、そのことに都会の皆様も気が付いていないし、実は地方の我々も気が付いていないように思います。
本町には素晴らしいネタがたくさんあるということは再三指摘していることですが、それらのネタが効果的に使えていない最大の障壁は、お金がない事や人が少ない事ももちろんあるのですが、その価値自体を我々が認識していない事も大きな要因であると感じています。そしてその認識は、本町には何もないとか、都会に頼らなければ生活が成り立たない、という我々の思い込みにも通じるものがあると思います。
この「呪縛」を断ち切って、我々の子どもや孫たちが望んだ時に、自信をもって帰ってこいといえる故郷を私は作りたい。あるいは、多くの方々が住んでみたいと憧れる故郷を作りあげたい。そのためには我々自身が本町の良さを再確認し、その良さを、我々が自信を持って周りに自慢できる状態にまで高めていく必要があります。
勿論、本町においても解決すべき課題は山積していますが、一つ一つのその課題を乗り越えながら、町民にもご協力をいただき、周りの皆様に自慢できる、「安芸太田町の、ここにしかない豊かな生活」を明確にしていくことが今回の長期総合計画の重要な役割であり、私の二期目の大きなテーマだと思っております。
難しい取り組みではありますが、我々の頑張りに本町の未来は勿論、日本の将来もかかっているとの自負を持ちながら取り組んでまいりますので、議員各位ならびに町民におかれましては、ともに新しいまちづくりにご参加いただきますことをお願いいたしまして、再任のご挨拶とさせていただきます。ありがとうございました。